『血の轍』の最新刊・次巻発売日・全巻情報まとめ
この作品について
中学二年生の長部静一は、母親から異常なまでの愛情を注がれながら育ってきた。従順で優しい息子、理想的な母子関係——しかし、従姉妹の押川しげるとの出会いをきっかけに、静一の内面に抑圧されていた感情が揺らぎ始める。ある日、母親が見せた「笑顔」の裏に潜む狂気を目の当たりにした静一は、取り返しのつかない一線を越えてしまう。果たして彼は、母親の支配から逃れることができるのか……。
『惡の華』で思春期の暴力性と羞恥を描き切った押見修造が、今度は母子関係という閉じた檻の中で少年を追い詰める。本作が傑出しているのは、母親の狂気を突飛な設定として描くのではなく、ごく日常的な会話や些細な表情の変化を通じて浮かび上がらせる点です。読者は静一と同じ視点に立たされ、「この母親は本当に異常なのか、それとも自分の感覚がおかしいのか」という不安に絡め取られていく。画面を覆い尽くす写実的な背景描写と、人物の微細な表情変化が生み出す緊張感は、サスペンスというよりホラーに近い。ビッグコミックスピリッツ連載作品らしい骨太な構成力で、家族という名の牢獄を容赦なく描き出しています。
一度読み始めたら、息苦しさから逃れられません。母親の視線が、あなたにも向けられているような錯覚を覚えるはずです。
まだ読んでいないあなたへ
母親が怖い、という感覚を本当に理解している人はどれくらいいるんでしょうか。
『血の轍』は、中学生の静一が母親の「愛情」によって少しずつ壊されていく話なんです。この母親、表面上はどこにでもいる優しいお母さんなんですよ。でも、息子への執着が尋常じゃない。静一が他の誰かに心を向けようとすると、母親の目つきが変わる。声のトーンが変わる。その瞬間の空気の凍りつき方が、ページ越しに伝わってくるんです。
この作品の恐ろしさは、暴力シーンでも猟奇的な展開でもありません。日常のワンシーンが、じわじわと息苦しくなっていくんです。朝食の食卓。何気ない会話。母親の笑顔。全てが、静一を縛る見えない鎖になっている。読んでいるうちに、自分の呼吸まで浅くなってくる感覚がありました。
押見修造さんの絵は、この異常な母子関係を完璧に表現しているんですよ。人物の表情が微妙に歪む瞬間、背景が不穏に揺らぐ演出。特に母親の顔の描き方が秀逸で、同じ笑顔なのに時として悪魔のように見える。読者は静一と同じ目線で、この「愛という名の支配」に閉じ込められていくんです。
物語が進むにつれ、静一は出口を探そうとします。でも母親は、あらゆる手段で息子を手放さない。この脱出劇とも呼べる展開が、サスペンス以上の緊張感を生んでいて、1巻読み始めたら止められなくなるんです。
家族って何なのか。愛情と支配の境界線はどこにあるのか。この作品は、誰もが持っているはずの「家族」という概念を、根底から揺さぶってきます。読み終わった後、自分の中の何かが変わっているはずです。